ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part84】午後4時。透明、ときどき声優

 今回の感想は2023年6月のMF文庫J新作「午後4時。透明、ときどき声優」です。

午後4時。透明、ときどき声優1【電子特典付き】 (MF文庫J)

※画像はAmazonリンク

 

あらすじ(BWより引用)

 これはわたしが、お芝居という「運命」に出会う物語──!

 

 わたし、山田良菜は『無色透明』で地味な女子高生。

 憧れの創作に挑んでも全く目立たず、自分は脇役だなんて諦めにも慣れてしまった。

 そんな高3の春、突然目の前に現れたのはわたしと同じ声の超人気声優・香家佐紫苑! 

 彼女が言った、“世界中で良菜にしか頼めないこと”は……。

 

「わたしと──入れ替わってくれない?」

 

 素人の私が、紫苑の替え玉声優に!? 絶対に無茶……! でも、やってみたいと思ってしまった。『わたしの声』が必要とされて、胸が高鳴った。紫苑に変装して飛び込んだ、痺れるようなアニメ作りの世界。意外にもそこには、透明なわたしにしかできない芝居があって──!

 

感想

 友達とSNSに投稿した歌ってみた動画。

 それが人気声優の紫苑に似ているとバズってしまい、当の本人から代役を頼まれてしまうことから始まる少し特殊な声優モノの作品でした。

 声がそっくりという理由で代役として始まった山田良菜の声優活動だったけど、当然簡単に行く話でもなく。そもそも自分の道を突き進む紫苑と、周囲に紛れて平凡に生きてきた良菜では、その考え方や振る舞い方だって違うのだから。

 しかし、だからこそ、現場の熱量や演技の魔力に魅せられる内に本物の紫苑にはない自分だけの声優像を見つけ出していき、その演技を精一杯に出し切る。

 そんな王道だけど熱い展開が良かった作品ですね。

 

 

 それはそうとして、本作の問題点というか。

 個人的に上手く咀嚼できないのが紫苑というキャラについて。

 彼女のスタンスが分からない。

 

 まず序盤。

 彼女が良菜に声優として自分の代役をやってほしいといった理由。

 それは「社長やりたいから、声優やめたい」というもの。

 

 これを見てわたしは思ったんですよ。

 あ、こいつくそほど自分本位なキャラなんだな、って。

 

 でも、読み進めていくとその第一印象がどんどん崩れていくのですよ。

 声優としてオーディションに落ちると悔しがる姿を見せたり。あるいは良菜が完璧な紫苑の代役ではなく、良菜自身の演技を見つけていくことに対して、代役とバレたらマズいと諫めるよりも、良菜自身の演技を応援したり。

 

 ……えっと、あなたは何をしたいの?

 

 根本にあるはずの、声優をやめたいのかどうかもハッキリしないし。良菜に自分の代役をやってほしいのか、彼女なりの声優としてがんばってほしいのかも分からない。

 彼女の態度や行動を一体どう捉えて良いのか分からない。彼女は良菜に声優という仕事を押し付けて自分は逃げ出す悪なのか、それとも良菜が声優をやりたいという希望を後押しする仲間なのか。

 別にどっちだって良いんですよ。

 どっちだって上手く使えば物語に味は出せますから。

 ただ、どっちでいくのかはハッキリしてくれ。

 声優やめて社長やりたいならやってくれていいから。ただ、自分が身勝手に声優やめたら問題になるの自覚してて、それで代役なんてものを頼んだのなら、お前は良菜に自分の代役であることを強要する立場じゃなきゃだめでしょ。自分の問題がバレたら、自分が社長になったときに大変だよ。

 

 

 

 加えて言うなら。

 なぜわたしがここまで紫苑のキャラの違和感に言及するかという話で。

 

 それはこの作品の今後の見所、期待するポイントっていうのが

「紫苑の代役として始まったはずの良菜の声優活動が、徐々にオリジナルの紫苑とは違う良菜の演技を身に着け始めていることで、代役という立場が崩れているけどどうするんだ?」

 というものだからなんですよ。

 

 良菜と紫苑、一人二役のハードワークをこなしていったりするのかな?

 演じる役に合わせて名義を変える声優、みたいな感じでできたりするのかな?

 もしかしたら、良菜が一人で同じ作品の2キャラを別人として演じることもあるのか?

 

 みたいな想像を膨らませてるんですよ。

 

 でも、これって全部。

 紫苑が声優を完全にやめることが前提にあるんですよ。

 だと言うのに、紫苑がまだ声優に思い入れがあるのか分からない、本気で声優を辞める気なのか分からない、っていうのはその期待を全部根本から壊す可能性があるものじゃないですか。

 そして、そうなった場合にこの作品の続きには何を期待したらいいの? という話にもなる。

 キーパーソンに一貫性がない、っていうのは作品の方向性や軸っていうものにも大きく影響してくるんです。というか致命的なんですよ。

 だからこそ紫苑のスタンスをハッキリしてくれって言うわけです。

 

 個人的にこの紫苑ってキャラを無難な形で収めて一貫性を持たせたいなら。

 

 生まれつき何か病気があって。

 もう長くは声優を続けられない。

 でも、自分を応援してくれるファンのためにもどうにか続けられないか。

 そんなときに自分と同じ声の女の子に出会った。

 彼女なら自分の夢を継いでくれるかもしれない。

 

 とかにすれば、序盤に矛盾はなく。

 

 良菜が声優を続けるうちに、自分だけの演技を見つけていった。

 でも、それは紫苑の代役という立場から外れるもの……。

 そもそも代役は自分のワガママから始まったんだ、強制できることじゃない。それに彼女が自分とは違う演技で多くのファンを楽しませてくれるのなら……、十分わたしの夢は叶うだろう。

 

 みたいにすれば、良菜の成長を応援するキャラとしての魅力もあって、違和感を覚えたりはしないのではないかと。

 

 

 少し切り口を変えたお話をしましょう。

 わたしはここまで「代役」という設定を直接的に問題があるとは言ってません。(……いやまぁ、代役させるのに無理があるだろとか、ほぼほぼコネ入社みたいになってて他の普通にがんばってる声優志望の子に失礼だろとか、ツッコミどころという意味では問題あるかもしれませんが、そういうのは脇に置いて。これフィクションだから。多少のツッコミどころは笑いましょう)

 代役をさせることを前提にして、紫苑がどうしたいのかが分からない、紫苑に納得できるようにするにはどうしたらいいのかという話をしました。

 言い換えれば、代役をさせる物語と、紫苑のスタンスが一致していない。これが違和感になって、わたしはその2つの要素の中で紫苑のスタンスを問題視していたわけです。

 

 じゃあ、「代役」という設定が悪いという方向性で話をしましょうか。

 個人的には、紫苑が良菜を代役にするのではなく、自分と一緒に双子声優としてやってみないかという感じでスカウトにくる、とかでも良かったのかもしれないと思ってます。

 なぜなら、この設定でも「良菜がある日突然に声優の世界に飛び込んで、演技に触れるうちに彼女自身が夢を持つようになる」ことも「最初は紫苑と同じ声というのを持ち味で声優になってたけど、その演じ方がだんだん紫苑とは違ってくる」ことも問題なくできるじゃないですか。

 そして紫苑の自分がやってみたいことはとにかくやってみるという快活な性格にも大きな差異は生じない。

 良菜が良菜にしかできない芝居があって、それを突き詰めていこうっていう物語にするのなら、「代役」という立場は重荷にしかならないの。

 だから最初から良菜が声優の世界に飛び込むきっかけとして代役という設定を使うのは意味があったのかないのかって話。意味があるというのなら「代役」という立場の難しさと責任を見せてほしい。

 今回、紫苑の持ち味と良菜の持ち味が違うという話はしてたし、それで完璧な代役にはなれないかもしれないという問題も提示されていたけど。最終的な着地点を良菜が良菜の演技をする! にしちゃったからね。代役のしがらみ無視して突っ走っちゃってるから。

 だったら最初から代役なんて設定にしなきゃよかったじゃん、って。

 

 ね、前提条件を変えても話はできますね。

 となるとですよ。

 また別の話もしようと思えばできそうです。

 

 わたしが前提にしているものがもう1つありますから。

 それは「本作は良菜が自分だけの声優像を見つけて成長する物語である」という前提。

 この前提を崩せば、紫苑のスタンスも代役という設定も納得できるような説明はできそうです。

 

 ただ、こんなのもう言っても仕方ない話になってきますよ。

 だってそうでしょう。矛盾しているものに関して、あそこを変えれば、ここを変えればなんて言い出したらキリがないんです。

 なので、わたしは、

・代役から始まる声優活動

・良菜が自分だけの芝居を見つけていく

 という2点は変わらない、変えられない本作の軸なのを前提にして考えます。

 何故ならこの2つは作品のいちばん下地になる設定や筋書きだと思うから。紫苑というキャラに関してはこの設定や筋書きの上に乗せる肉付けにあたる部分だと思うから優先順位は下がります。

 そうなった場合、どうしたって紫苑というキャラには違和感しか感じられない、っていうのがわたしの結論ですね。

 

「いやいや、ちょっと待て。この1巻は主人公である良菜メインのお話で、紫苑の掘り下げはまだこれからなんだよ」

 と言って擁護したい気持ちも最初はありましたが、ちょっと難しいですね……ごめんなさい。

 もしそうであるなら、紫苑の曖昧な態度は伏線なんですよって、あからさまに匂わせてほしいですし。こんな明らかな違和感として飲み込みづらいキャラにする必要性は感じられないですし。

 この1巻が良菜の巻というなら、それこそ普通に無難に分かりやすいキャラに留めておいてほしかったですね。

 

 という感じで長くなりましたが本作の感想でした。

 最後に総評いきましょう。

 

総評

 ストーリー・・・★★★★ (8/10)

 設定世界観・・・★★★☆ (7/10)

 キャラの魅力・・・★★ (4/10)

 イラスト・・・★★★ (6/10)

 次巻以降への期待・・・★★☆ (5/10)

 

 総合評価・・・★★☆(5/10) 設定やストーリーは良。キャラ付けに難あり。 

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

bookwalker.jp