今回の感想は2023年8月のGA文庫新作「透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。」です。
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あらすじ(BWより引用)
第15回GA文庫大賞《大賞》受賞作。
目の見えない君は僕の顔も知らない――でも、この恋はふたりだけに見えている。
「打上花火、してみたいんですよね」
花火にはまだ早い四月、東京の夜。
内気な大学生・空野かけるはひとりの女性に出会う。名前は冬月小春。周りから浮くほど美人で、よく笑い、自分と真逆で明るい人。話すと、そんな印象を持った。最初は。
ただ、彼女は目が見えなかった。
それでも毎日、大学へ通い、サークルにも興味を持ち、友達も作った。自分とは違い何も諦めていなかった。
――打上花火をする夢も。
目が見えないのに? そんな思い込みはもういらない。気付けば、いつも隣にいた君のため、走り出す――
――これは、GA文庫大賞史上、最も不自由で、最も自由な恋の物語。
感想
これは良かったですね。
大学のコンパで出会ったヒロイン・冬月小春は目が見えない。周囲の空気になって生きてきた主人公・空野かけるは、同じ講義を取っているからという理由でその時間何かあったらよろしくと彼女の友人に頼まれる。そんな小さなきっかけから始まる二人の恋物語。
目が見えない彼女に対してどう接すればいいのか、その悩みは読者の身からしても正解が分からないもので。だからこそ二人の一挙手一投足、どんな風に接して、どんな風に言葉を交わして、そしてどんな風に想いを寄せていくのか、その過程にどんどん魅入ってしまう。ここが個人的にはいちばん好きなところ。
しかし、中盤からは話が大きく揺らぎ始めて。
彼女の心に踏み込む、そのために彼女の体が抱える問題に真っ直ぐに向き合わなきゃならず、苦しい現実の展開の中でもがきながら、それでも抗う強い意志と想いを見せる様はまさしく花火のように心に焼き付けるような熱を感じて、グッと来ました。
また最後まで見所たっぷり、というか。この作品だからこそ描くべき未来の姿にはほろりと涙が零れそうでした。
で、ここからは余談で。
蛇足になるかもしれないけれど、どうしても言いたいことがあります。
なんか違うのでは?
というわたしの心の中にある引っかかり。
ここからはガッツリ内容に触れていくので、ネタバレ気にする人はブラウザバック推奨。
では、改めて。
わたしが何に引っかかりを覚えるのか。
それがヒロインの冬月小春、彼女の失明に関する問題が癌に起因しているという部分なのです。
わたしはこの作品でいちばん良かったと思うこととして「失明している、という問題を抱えるヒロインと、どんな風に接して、どんな風に言葉を交わして、そしてどんな風に想いを寄せていくのか、その過程にどんどん魅入ってしまう。」と最初に言いました。
だからこそ、終盤どんな風に二人が結ばれていくのか想像するわけですよ。
――目が見えないというのは明らかに枷となってしまう要素、だからヒロイン側はそれを気にして踏み込むことができないのではないか、主人公からアプローチするしかないのか、しかしその場合は目が見えないという生涯に渡る問題に向き合う覚悟を見せなきゃいけないな……、一体どうなってしまうんだ?
と、そんな感じで、色々考えました。
しかし中盤から彼女の失明は癌によるものだと明かされ、終盤はどんどん「難病モノ」としての感動作品のソレに向かってしまったんです。
最初からそういう作品として見れば間違いなく面白い、1つ綺麗な形でまとまった作品だというのは認めます。
目が見えない原因、その設定を詰めていけばこういう病気由来という話になるのも仕方ないだろうな、とも思います。
でも、でもですよ。
なんか違うくないですか?
目が見えないヒロインとの恋物語。
難病(そのせいで目が見えなくなってしまった)ヒロインとの恋物語。
って似ているようで、その軸が違うと思うんですよ。感動させたい部分だとか、これをいちばん読者に見せたいという部分が違うと思うんです。
前者だったら目の見えない彼女にどう向き合うかという問題が、後者だと余命幾ばくもない彼女にどう向き合ったらいいかみたいな問題に変わっちゃったりするじゃないですか。
それに難病がメインにあって、盲目がそのサブについてしまったら「ヒロインは重い病気を患っていて、足が不自由だ」とかになったって本質的な部分が良くなってしまうわけですよ。不自由なのが目である必要がなくなってしまう。そうしたら本作の盲目ヒロインという魅力はさらに減ってしまうんですよ。
だからこの部分の前提があるかどうか、読む心構えって重要だと思うのです。
わたしはこの前者を期待していました。だってあらすじからはそういう雰囲気が感じるんですもの。宣伝だって「目が見えないヒロインとの恋物語」っていう部分を推してたじゃないですか。
しかし、蓋を開けてみれば後者だったわけです。
何度も言いますが、そういう作品として見れば面白かったですよ。綺麗にまとまっていて、感動できるような単巻作品、良いじゃないですか。
文句なんかつけようがありません。
ただ、わたしが期待していたモノとズレてしまって、そのせいで読み終わっても素直に手放しで称賛できないモヤモヤが残ってしまうのです。
「盲目のヒロインとの恋愛というもの一本軸でやってほしかった。」
「序盤の目が見えないというハンデを持ちながらも努力しているヒロイン像っていうのは本当に素晴らしかったのに。」
「だからこそ、難病モノという方向にいかないでほしかった。そこで感動を促すような作品にしてほしくなかった。」
そんな本音が次から次へ出てきてしまう。
これは一体どうすればいいのでしょうか?
分からない。本当にどうすればいいのか。
でも、これはどうしても吐き出したい気持ちだったので今回の感想のメインで話させてもらいました。
総評
ストーリー・・・★★★☆ (7/10)
設定世界観・・・★★★ (6/10)
キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)
イラスト・・・★★★★ (8/10)
総合評価・・・★★★☆(7/10) 単巻難病モノとしては良い作品でした
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
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最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。