今回の感想は2023年7月のオーバーラップ文庫新作「幼馴染たちが人気アイドルになった」です。
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あらすじ(BWより引用)
「働きたくない」を標榜する高校生の葛原和真(くずはらかずま)には2人の幼馴染がいる。それは、大人気アイドルグループ『ディメンション・スターズ!』のメンバー、小鳥遊雪菜(たかなしせつな)と月城(つきしろ)アリサ。2人がアイドルになったのは、和真を生涯養うためで……!?
「カズくんは、私以外の他の子に尽くされたらメッ!」「和真を他の女の子に渡すとか絶対嫌」「カズくん(和真)には、私(アタシ)しかいないんだから」
雪菜とアリサは和真への愛ゆえにお小遣いと称して大金を渡したり、嫉妬から他の女の子を遠ざけようとしたり……そんな、一途だけども愛が重い『幼馴染アイドル』たちと過ごす、貢がれ甘々の青春ラブコメディ!
感想
主人公がクズ!!
そんな噂を聞き読んだ作品ですが、なるほどこれはクズですね💦
幼馴染二人に一生働きたくない宣言をし、お金を貢いでもらって、しかしそれでも飽き足らず金をもらえる寄生先が他にも作れそうならどんどん作っていく。彼にとっては幼馴染の情よりも金がいちばんなのだから。
と、そんなスタンスをずっと崩すことがない主人公。
周囲から幼馴染だからってアイドルに手を出すなんて、と言われたときすら「手なんか出すわけない」「自分にとって大事なのはあいつらの金なんだ」「女を容姿でしか判断できないなんて哀れだな」とか言って反論する始末ですからね。
こいつは、ダメ人間ですわ。
さて、そんなクズ主人公を扱う本作がどんな風な内容になっているか。
ここを細かく見ていきましょうか。(※ここからは内容を順を追って説明するような形になるのでネタバレ絶対NGみたいな方はブラウザバックしてください)
まず、主人公たちの学校に一人の転校生がやってきます。
それはアイドルグループ「ディメンション・スターズ!」の大ファンであると自称する財閥のお嬢様、伊集院さん。どうやら金の力を使って推しアイドルと同じクラスに転校してきたのだとか(この冒頭から既にこの人も大概にやべーです)
そして、彼女が転校先で目にしたのは、推しアイドルが二人してクズ主人公に貢いでいる姿。
あんなクズ男を許すわけにはいかない!!!
と、伊集院さんの奮闘が始まるのでした……、という感じでお話が始まります。人称視点は主人公の一人称ですが、物語の担い手かつ主人公へのツッコミ役という意味では伊集院さんの活躍が大きい感じ。また、この伊集院さんも財閥の財力を平然と私的利用するようなやべー人なのでコメディ的な空気感が強かったですね。
しかし、ヒモ男なんか最低のクズだと、そんな正論を言われたくらいで改心するような主人公ではなく。
伊集院さんに対して「俺ならお前の推しアイドルの個人的撮影会だってできるんだけどなぁ?」と賄賂を始めたり、あるいは「お金だけが欲しいのなら」と逆に伊集院さんが金で買収をしようとするのに対して「お前はその程度のお金で推しアイドルの価値を見積もるのか」「しかも自分のお金じゃなく、自分の家のお金で……。それがお前のファンとしての熱意なんだな」と煽り返し伊集院さんをメタメタにした上で「まぁ、でも仕方ないから。お金はもらうよ。幼馴染にはもう寄生しないよ」「……あ、でもあいつらって俺に貢ぐためにアイドルやってるから、俺が寄生しなくなったらアイドル辞めるかもしれないなぁ。でも仕方ないよなぁ。お前がそうしろって言うんだから」と言い出す始末。(なんか、すっごいどうしようもない展開なんですが)
そして、ここまで伊集院さんとクズのやり取りだけお話しましたが、ここまで突き抜けた作品でこの二人だけがやべー奴なんて、そんなわけがないでしょうと。
幼馴染でアイドルの二人。小鳥遊雪菜と月城亜アリサ。この二人も十分にやべー子。
雪菜に関しては心から主人公を甘やかすのが幸せというような子でして。「どれだけクズになってもいいよ。むしろクズになった方がいいよ。他の女が寄りつかなくなるから。私が一生養うからね。」と、そんな風に言うのです。
そして、アリサは一見すれば主人公に対してしっかりしなさいと叱咤するまともな子かと思いきや「ちゃんと反省してる? 反省すれば良いの。本当にアタシがいないとだめなんだから。はい、ご褒美にお金あげるから。いつも雪菜ばかりアテにするのはダメなんだからね」と、それはもう全く男を反省させないダメなやつ~! という態度をナチュラルにしてるんですよ。
まさにヒモ宣言するクズ男と、それを養いたいダメ男好きな女の寄生関係が見事にできている。
そして本作の肝となるポイントが1つここにあって。
しばしばラブコメにおいて「なんでこの主人公がモテるんだ?」という疑問が浮かぶようなことがあったり、この作品に限ってはそんな疑問が無粋になってしまう。何故ならヒロインたちは養いたいんだもの、クズで良いと思ってるんですもの、ダメ男好きってそういうものじゃん、みたいな強引な理論で納得させてくる空気ができてるんですよ。
クズ主人公作品ではしばしば、普段はダメなやつだけど実はこんなカッコいい姿があるんだ、ヒロインたちはそれを理解しているから彼のことを好きなんだ。みたいなのありますけど、本作はそういうものでもない。クズはクズのまま変わらない、しかしそうであるからこそダメ男好きのダメなヒロインたちという形が綺麗に作られる。
何というか、この作品を見ていると「本人たちが幸せと思うならそれでいいんじゃないかなぁ(遠い目)」みたいな気持ちになるのですよ。
これがなかなか上手いと思いました。
あとは本作のオチとなる部分。
最初に言ったように新たな寄生先を見つけたらそれを確保しようとする主人公。当然ですね、アイドルなんて将来性の不安定な寄生先だけじゃ一生養ってくれるか分かりませんから。お嬢様である伊集院さんをメタメタに言い負かせて、新しい寄生先になってくれるように契約を結ばせようと、そう考えるわけですが。
しかし、ここまで読んだ読者なら気づくはず。
「いやお前、幼馴染は二人とも自分を養うためにアイドルになったって言ったじゃん。雪菜もアリサも絶対怒るぞ? なんなら雪菜なんか元々ヤンデレの気配あるし……」
そう思ったら、うん、案の定でしたね(笑)
私たち以外に養われる必要ないよね? 自分たちが養い続けるためには監禁するしかないかな? とヤンデレて結託した幼馴染二人を前にして、クズは果たしてどうするのか・・・次回に続く!
と、そんな感じで突き抜けていった作品でした。
本作の感想をまとめるなら。
終始思考が金だったはたきたく兄主人公。そんなダメ人間を養うことに幸せを覚えるやべー幼馴染二人。そんなアイドル二人を追って財閥の財力を私的利用して大暴走するお嬢様。とにかくやべー奴しかないラブコメっぽい何か。キャラのクセの強さだけで面白いですね!
と、言ったところでしょう。
更に言えば、このメインの4人に限らず。お嬢様の専属メイドもまた、理想のダメ人間に奉仕したいと望むような子で、結果クズ主人公を理想のご主人様と認めてしまったり。幼馴染二人の所属するグループは四人メンバーで、主人公が貢がれた金で課金しながらやっているゲーム相手の正体がその一人っぽく、最後にチラッと登場した残りの一人が波乱を呼ぶのか? みたいなエピローグがあったので、やべー奴密度がさらに増すのかと気になるところですね。
総評
ストーリー・・・★★☆ (5/10)
設定世界観・・・★★☆ (5/10)
キャラの魅力・・・★★★★☆ (9/10)
イラスト・・・★★★☆ (7/10)
次巻以降への期待・・・★★★★ (8/10)
総合評価・・・★★★★(8/10) 主人公もクズだけど、ヒロインも十分やべー子ですね
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
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