ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part97】さようなら、私たちに優しくなかった、すべての人々

 今回の感想は2023年8月のガガガ文庫新作「さようなら、私たちに優しくなかった、すべての人々」です。

さようなら、私たちに優しくなかった、すべての人々 (ガガガ文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 四方を山に囲まれた田舎町、阿加田町。

 この町の高校に通う中川栞は、いじめを受けて不登校になっていた。

 ある日、栞の家に同居人として佐藤冥がやって来る。

 誰にも心を開かない冥は、この町へ来た目的を栞だけに告げた。

「姉を死に追いやった七人の人間を皆殺しにしてやりたいの」

 三年前、冥の姉・明里は、この町で凄惨ないじめに遭い自ら命を絶っていた。

 その復讐のために、冥はここへ戻ってきたのだ。

 冥は阿加田神社に伝わる血塗られた祭儀『オカカシツツミ』を行い、巨大な蛇の神『オカカシサマ』を自らの身に宿らせることで、七人の人間を殺していく計画を立てていた。

 

 夏至の夜、冥は儀式を成功させる。

 それから一日に一人ずつ、冥は神様の力を借りて、栞と共に姉の死に関わった人間を殺していく。

 復讐と逃避行の日々の中、いつしか二人は互いに恋愛感情を持つようになる。

 だが冥は栞に、一つの隠し事をしていた。それは『オカカシツツミ』を行った人間は、最後には自らの魂を神様に捧げなければならない、つまりは〈冥の死〉が避けられないことを。

 

感想

 これはとある田舎町のお話。
 三年前に、ヒロインの冥の姉である明里は自殺した。彼女を自殺に追い込んだのいじめだった。そして、冥は姉を自殺に追い込んだ人間を全て殺す復讐を果たすのだった。主人公の栞は、そんな彼女の復讐に付き合い、やがて二人は恋に落ちていく。しかし、町に伝わる蛇神様の力を借りて行った復讐の代償は冥自身の命。

 

 そんなあらすじにもあるような筋書きが復讐を完遂する様子と共に冒頭から描かれる本作は最初から、その結末が決まっている。復讐を遂げて、その果てで自分も死ぬ。

 復讐の手段は神の超常的な力を使ったもので、冥の姉をいじめていた奴らはあっけなく死んでいく。 

 そこに例外はほぼなく、故にただ淡々と。

 ともすれば儀式的に。

 この物語は終わりへと一歩一歩進んでいく。

 暗い闇の中に落ちていく。

 

 復讐の物語に、回想のように挟まれていた、明里の過去は凄惨の一言に尽きるでしょう。

 いじめの描写そのものが残酷なのは言うまでもなく。いじめられてその心がじわじわと壊れていく様子、正常な思考を失い、誰にも頼ること無く、その果てに自殺が救いになると疑わずその命を絶ってしまった。思わず目を瞑りたくなってしまった。

 そんな痛ましいまでの事件を起こしたら最低と言ってもいい奴らは、しかし、言ったようにその最後の言葉も無くほとんど即死のように死んでいく。悪いことをしたのだから報いを受けて当然だ、とそんな風に思う爽快感はなかった。

 

 ならば、この復讐の物語には、何があるのか。

 それはきっと復讐を遂げた栞と冥、二人の心だけにある何か。

 主人公の栞もまたクラスメイトからいじめられている。そんな彼だからこそ、冥の復讐に付き合う中で感じたことがあるだろう。

 冥もまた、ただ終わりに向かうしかないはずだった自分に一人だけ、ずっと隣にいてくれる人ができた。思うことがたくさんあるだろう。

 真っ暗闇の一本道で。

 決して引き返すことのない黄泉路で。

 恋におちて、手を繋ぎ、粛々と終わりに向かう二人だけが感じ合うことのできる希望と光がたしかにあったのだ。

 

 

 

 とそんな感じで、とりあえず。

 内容が内容ですからね。

 わたしもひとまずは粛々と感想(?)を書きました。

 

 要約すれば
「この作品は最初から終わりが提示されていて、そこにただ淡々と進むようなお話。内容は復讐。スカッとするようなものでもなければ、そこに物語的な面白さや楽しさは皆無と言っていいのではないかと思います。しかしそんな暗闇の一本道の中でもたった二人だけの小さな希望があること。この明暗を余すこと無く書き切った本作だからこその読後感は残りました」
 という感じでしょうか。

 

 この作品の結末には、人それぞれ言いたいことがあるかもしれませんね。

 復讐の果てはハッピーエンドと言えば良いのか、バッドエンドと言えばいいのか。それを見て絶賛する人がいるのか、はたまた批判する人がいるのか。テーマがテーマだけに一概に善悪を言うことはできないですし。

 

 わたし自身、何と言えばいいのやら。

 ラノベを読むということを基本的には娯楽としてしか考えていないような人間として言うなら、この作品はナシでしょう。いじめの描写が容赦ないし、基本的に作品の空気感が暗くて重いし、読んでてすっごく精神的に疲れますよ。

 ただ個人的な趣味で言えば、この闇の物語で育む二人だけの想いみたいなものは実に良いものだったと思いますし、山の蛇神様のお話なんかは好きな要素で、その結果死の運命が待ち受けているヒロインというのは大好物の設定と言って良いです。最初から最後までずっと陰鬱な雰囲気が離れない作品ですから、二人がその果てで辿り着いた最後の穏やかさやささやかな幸せみたいなももには正直心が救われる。

 ただ、この個人的な好きだとか、面白いみたいな話をするのがどうにもしっくり来ない作品なんですよね。テーマがテーマだけに。なので、そういう分かりやすい言葉は使いませんが、たまにはこういう普段あまり読まない方向性の作品を読むのもいいですね。と、そう思いました。

 

総評

 ストーリー・・・★★★ (6/10)

 設定世界観・・・★★★ (6/10)

 キャラの魅力・・・★★★ (6/10)

 イラスト・・・★★★ (6/10)

 

 総合評価・・・★★★★(8/10) ストーリーが良いとか、キャラが良いとか、どこか一部を見てこれが良いとは言えないですけど、この作品は読んで良かったと思います。

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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