ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part91】愛され天使なクラスメイトが、俺にだけいたずらに微笑む

 今回の感想は2023年6月のHJ文庫の新作「愛され天使なクラスメイトが、俺にだけいたずらに微笑む」です。

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あらすじ(BWより引用

 安らぎの天使と呼ばれる愛され美少女・里見千佳。お菓子作りガチ勢の市瀬颯真は、お菓子の差し入れをきっかけに、千佳に放課後、試食係をお願いすることに。代わりに、颯真も「色んなことをやってみたいんです」と言う千佳を見守ることになって――

 「……市瀬さんの恥ずかしがる顔って、すごく可愛いんですね」

 普段は受け身なのに、なぜか颯真にだけはSな笑顔を見せてからかってくる千佳のせいで、颯真の放課後はどんどん甘いものに!?

 お菓子が結ぶいたずらな天使との甘くて刺激的なラブコメ開幕!

 

感想

 正直、微妙と言わざるを得ない作品でした。

 その理由としてはいくつかありますが。

 

 いちばん大きいのはキャラの言動の節々で違和感を覚えること。

 

 ――まずは主人公。

 パティシエを目指している、という設定で。

 普段からお菓子を作ってはクラスメイトに食べてもらって感想を求めているような人物です。親の都合で専門学校等には行けず、普通科の学校に来たそうですが、そんな中でもできることをやろうとがんばっている。

 夢に向かって努力するタイプの主人公ですね。

 これだけなら、中々好印象です。

 

 まぁ、しかしこう言うってことはそうではないと。

 本作はそんな主人公が、自分のお菓子作りに真剣な感想をくれたメインヒロインの子に試食係をお願いするところから話が動き始めます。

 愛され天使、なんて呼ばれる彼女は両親から蝶よ花よと育てられて、クラスメイトからもマスコットキャラのように愛でられて、一人で何かをするという経験ができないことに不満を覚えていた、という背景がありまして。

 そんな彼女は、主人公に自分がお買い物や外で遊ぶことに付き合ってほしいとお願いするのです。

 つまりは、ちょっとした交換条件で始まる二人の交流ってことですね。

 

 で、個人的に気になったのが主人公の心情でして。

 彼は最初クラスメイトに自分のお菓子を振る舞うときに「お菓子の感想を細かく言えなんて言われても難しいのは理解している。それでももっと真剣な感想をくれてもいいじゃないか」と内心不満を溜め込んでいる描写が見られます。

 まぁ、ここまでは言いたいことは分かります。

 しかし、彼はヒロインとのお買い物中に、彼女からどんな服が似合うと思うか聞かれたときに「いや、服のことはさっぱりだから無理」と言うんですね。

 

 ……そうか、そうか。つまりきみはそんなやつなんだな。

 

 おっと、思わず言いたくなってしまいました。

 いやね、お菓子の感想と女の子の服の感想じゃハードルが違うかもしれませんけど。

 でもさぁ、自分が他人に対して不満を持つことをそっくりそのままお前がやるの? ふぅん、そうですか。

 この時点はわたしの主人公に対する好感度はマイナスになりました。

 

 また、ヒロインに対しての発言でも、どうしても1つ違和感を拭えないのがあって。

 それがこの主人公はヒロインのことを「悪鬼羅刹」とか言うんですよ。

 ヒロインは、今まで男子とあまり関わって来なかったこともあってか、主人公との距離が少し近い。そしてそんな距離感だと主人公が照れてしまうのだけど、その初々しい反応に何故かときめいてしまう。ということで、それからは若干意識的に主人公を照れさせようとする素振りを見せるんですね。それがタイトルにもある「いたずらに微笑む」要素だと。

 うんうん、可愛いじゃないですか。

 読者目線で見れば間違いなく可愛い。ただ、それを当事者の主人公からしたら困ったものだと思うのも分からなくはない。

 けど……、それを悪鬼羅刹とまで言うか?

 流石に言い過ぎでは……。

 

 いや、ここで言ってるのはあくまで一例、ほんの些細な部分なんですけど。

 その些細な部分で「主人公は夢に向かって努力する真っ直ぐな人間」という印象が少しずつ崩れていくんですよ。この作品は。

 自分の夢のために他人に付き合ってもらってるなら、他人の努力にももう少し真摯に向き合ってあげてくれませんかね?

 いや、もちろん作品全体で見たら、主人公はヒロインによく付き合ってあげていますが。ただ本当に、細かい言動の1つ1つから、この主人公の自己中心的な何かが滲み出てるんですよ。

 この違和感がどうにも気持ち悪い。

 

 ――続いて、ヒロインの友人キャラ。

 彼女は、クラスメイトの中でもヒロインを愛でる筆頭といった感じ。溺愛していて、ヒロインに近寄る悪い虫には牙を向くようなキャラ。

 そういう設定自体はままあるものですし、嫌いではない。

 ただし、それはこの友人キャラの内面が描かれればの話だけど。

 何故彼女がこんなにもヒロインを過保護にするのか、そのエピソードがこの1巻で一切描かれないので、正直に言ってただただヤバい奴にしか見えませんでした。

 

 ――あとはヒロインの両親ですね。

 蝶よ花よとヒロインを育ててくれていた、というこの人たちに関しても、ヒロインの家にお呼ばれするイベントで登場するのですが、まぁこれも描写がほとんどない。

 メインヒロインの背景に大きく関わっているだろう人たちなのに……。


 ――何と言えばいいんでしょうか。

 この作品、基本的に主要キャラでも主人公とヒロインを除くキャラの描写がほとんどないんですよ。
 いや、二人の甘々ラブコメっていうのを描きたいならその他っていうのは邪魔になるじゃないかと、思うかもしれませんけど。

 ヒロインは甘やかされている、何でもかんでも世話されちゃって自分が何もできない。そんなふうに思うくらいに友人も両親も過保護にしていて、それが本作の話のきっかけにまでなっているんですから、その理由くらいはあってしかるべきなんじゃないですか?

 そうじゃないと、むしろノイズになって甘々の空気に集中できません。


 そして、ここまでのキャラの話をしたので言うまでもないかもしれませんが。

 キャラ描写すら不足している本作がストーリーとしても何かが進行することはなく……。最初に述べた設定で、主人公とヒロインがただひたすらにお出かけするだけで1巻終わったんですよね。

 もう本当にどうしろというんですか、これ。

 何よりもびっくりするのが、これでウェブ初作品じゃないというの。てっきりそういうものだと思って、それならまだそれを描いた部分が1巻に入ってないんだなで納得しようと思いましたが……、その言い訳すらできないですね。

 

 

 ――とはいえ、本作にはまだ希望がありました。

 それは主人公がパティシエを目指すという設定。ここでお菓子要素を加えることで、本作のオリジナルな味わいを……、そんなものはなかったorz。

 主人公がお菓子を作る姿はほとんどなく、基本的にお菓子をヒロインに食べてもらって感想をもらうだけなので、これではお菓子要素というより「お菓子を食べてるヒロインが可愛い要素」にしかなっていないのです。

 


 ――結論として。

 ヒロインの設定から、自然と二人きりの時間を作れるような展開にできたこと。ヒロインが初々しい反応をする主人公にときめいて、もっと照れさせようとする行為が無自覚なイチャイチャに発展すること。

 この2点において甘々作品としては十分だと言えるでしょう。

 いや、むしろ正直ここだけ見ればめちゃくちゃいい作品だと思うくらいです。本当にヒロインはちゃんと可愛いですし、そしてその言動も納得できますし。

 

 でもそれ以外のキャラにはどこか違和感を覚える、もしくは描写不足でノイズになってしまう。そして話はほとんど進行しない。パティシエを目指す主人公という設定が空気になっている。

 というようなマイナス要素が、本作の美味しい部分である甘々に集中できないくらいに感じられてしまう。終始、歯に魚の小骨が3本くらい刺さったような感覚になる。これがまた致命的な作品の矛盾とかでないのが実にモヤモヤして仕方ありません。

 なので、全体としては微妙、と言わざるを得ないということになりますね。

 

総評

 ストーリー・・・★☆ (3/10)

 設定世界観・・・★★ (4/10)

 キャラの魅力・・・★★★★ (8/10) ※メインヒロインのみの評価

 イラスト・・・★★★ (6/10)

 次巻以降への期待・・・★★ (4/10)

 

 総合評価・・・★★☆(5/10) とにかく微妙な作品(メインヒロインだけは可愛い)

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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