今回の感想は2023年9月のガガガ文庫新作「悪ノ黙示録」です。
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あらすじ(BWより引用)
マフィアの王、異世界を蹂躙す。
晩年、裏社会の支配者として君臨した男、レオ・F・ブラッド。彼の人生は、絞首台の上で終わりを告げたーーはずだった。意識を取り戻すと、その目に映ったのは見知らぬ町、見知らぬ人々。そして、見知らぬ自分の姿。かつて裏社会を統べた男は、何の権力も持たない唯の少年へと生まれ変わっていた。生前手にしていた力は何もない。だが、揺らめくような野心の炎だけは、未だその胸を熱く焦がしている。異世界のスラム街にて二度目の生を受けたレオは、仲間を集め、再び世界を手中に収めることを決意する。生前では取りこぼした、あるモノを手に入れるためにーー。第17回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。死してなお悪道を征く、転生系ダークファンタジー。
感想
自分の仲間はその手で守り。
自分の敵は容赦なく殺す。
そんな主人公の徹底した生き様が詰め込まれた作品でしたね。ダークヒーローとはかくたるや、そんな魅力が存分に伝わってきました。
特に終盤にはそれを強調するようなインパクトのある展開もあり、一気に読者を引き込むこともできたのではないでしょうか。
また本作は主人公の目的もハッキリしているために物語として先を読む楽しみが確約されているのも良いですよね。次はどんな敵と戦うのか、主人公はどんな悪を見せてくれるのか、そういうシンプルな期待を持てるのは良いです。
作品としてカッコよく見せたい部分をしっかりカッコよく見せられている。
そういう意味で、この作品は間違いなく面白い作品、良い作品と言えます。
なのでこの作品は面白かった、というのを前提にしていくつかの気になった部分について考えていきます。
まず、1つ。
作品としての爽快感が足りないと感じたこと。
この原因は主に2つあると思っていて。
「敵が小物すぎたこと」「戦い方が脳筋パワーゴリ押しだったこと」
この2つですね。
まず前者について。
主人公が徹底した悪としてカッコよく描かれている。それ故に、敵の小悪党感が余計に際立ってしまっていました。もちろん逆に見れば、敵が小物だからこそ、徹底した主人公の悪が映えるとも言えますので一長一短。
ただやはり主人公が巨大な悪であるのなら、それと同等の悪との戦い、もしくはそれを予感させるささやかな邂逅を見せて欲しかったと思います。
だって勝てて当たり前のバトルって盛り上がらないじゃないですか。
それに個人的には、主人公めっちゃ強い、を魅せたいなら格下には当然のように勝てて、格上や同等のレベルには苦戦はするけどやっぱり勝てるんだよなぁ。という演出があった方がいいと思ってるからという理由もあります。
なので、この1巻が小悪党との戦いのみで、いわば主人公の紡ぐ悪の黙示録としてのプロローグで終わってしまっているのがすごく惜しいと思うわけです。
後者の、戦いがゴリ押し過ぎたこと。
これは文字通り、ゴリ押しでした。
実は仲間が全員めちゃめちゃ強くて、主人公も特殊能力があって、それでめちゃめちゃ強くて苦戦するような敵に勝ってもなんか釈然としないといいますか……。
悪の限りを尽くすという意味で見れば、裏で手を回し謀略で敵を欺くというのも、圧倒的な暴力でねじ伏せるというのも、どちらもありでしょう。この圧倒的な暴力でねじ伏せるというのも「個の力」「組織の力」どちらであっても良いでしょう。いわゆる魔王みたいな圧倒的な個で全てを支配する悪だって、悪の組織の親玉としてカリスマで組織を動かすような悪だってカッコいいです。
そして、おそらく本作の主人公の目指す悪の形は後者の「悪の親玉として組織を動かす悪」だと思うんですよね。
だとしたら、仲間がそれぞれめっちゃ強くて、主人公も特殊能力あるのでピンチでも勝てました、というのはなんか解釈違いな気で……、主人公の「悪」によって勝つことができたという実感が沸かないわけです。
それに先ほどの話にも関連しますが、単体の戦闘力がめっちゃ強い敵に苦戦するのって、主人公が悪として敵に一枚取られるのとは別の話じゃないですか。戦いにピンチを演出するのはいいですけど、主人公の戦いの土俵じゃない部分でピンチになってもそれは仕方ないなとしか思えない。
カッコいい主義主張生き様を持ってる主人公なのだから、それをちゃんと最後まで行動と戦いに活かしてほしいなと感じた次第ですね。
しかし、これもまた別の見方をすれば。
強力な力を持っていても、それを十全に活かせる場所を持っていなかった者たちが、主人公という道標に出会ったことで初めてその力を存分に発揮できるようになった。そんな展開に注目すれば、これは面白い型の1つで間違いないですし。
ぐだぐだ面倒なこと言わずに、圧倒的な暴力で魔法に勝つ、拳で殴る、力こそパワー、みたいな戦い方はそれ自体がロマンのあるもので良いじゃないかとも言えるんですよね。
やはりこれもまた一長一短です。
それから、気になった点2つ目。
これは完全にわたしの趣味趣向から生まれた問題ですが。
ヒロインがメイドじゃない!!!
……というお話。表紙で銀髪メイドを見て、銀髪大好き、メイドスキーなわたしは飛びついたわけですが。
読むと「これメイドである意味ないじゃん!!」ってなるんですよ。
わたしは別にメイドとはなんたるか、というのを問うわけではないですし。
メイドキャラじゃなくても、普通に学園モノでメイド喫茶とかでヒロインがコスプレして可愛いのとかも大好きですから、格好だけのメイドであることに文句はありませんが。
ただこの作品は、雑にメイドという形にヒロインを当てはめた感がどうしても付きまとってしまう。
戦うメイドとか、暗殺者メイドとか、そういうのって読者は好きなんじゃないの? と言われているような感覚。
そりゃもちろん好きですけど。
たださ、主人公の持つ悪というコンセプトをこれだけしっかりできるのなら、ヒロインのコンセプトももう少し堅いものにできなかったのかなと思ってしまうのです。
例えばですが、ヒロインの出自をただの暗殺者の一族ではなく、表向きは要人護衛、裏では暗殺を担う一族とすれば「誰かの側仕えになる=メイド」が安直ではありますが結びつくかもしれません。
メイドになるということに、何らかの理由付けがほしかった。メイドという要素が、雑なキャラ付けだけに使われているように見えてしまうために、気になってしまった部分ですね。
最後に、感想をまとめます。
最初にも言いましたが、この作品は面白いです。
そしてわたしが気になる点としてお話しした要素も、明確なマイナス点ではなく、一長一短の面白くなる要素もしっかり含まれているものばかりでした。だからこそ惜しいなと感じてしまうことが多い。
主人公の悪をしっかり丁寧に描けるのならば、その他のキャラや物語の演出でも細部まで詰めることができるのではないか。そんな期待もあるからこそ生まれてしまうささやかな不満です。
そういうわけで、個人的には悪を貫く主人公の主義や言動、カッコいい部分や面白さとなる核はよく伝わってくるけれど。それが物語的な面白さとして、いいぞもっとやれ、と楽しく読めるハードルに一歩届いていない。というのが総評になりましょうか。
総評
ストーリー・・・★★★ (6/10)
設定世界観・・・★★★ (6/10)
キャラの魅力・・・★★★☆ (7/10)
イラスト・・・★★★ (6/10)
次巻以降への期待・・・★★★☆ (6/10)
総合評価・・・★★★☆(7/10) 主人公の魅力は存分に感じることができました
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
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最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。