ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part110】エヴァーラスティング・ノア この残酷な世界で一人の死体人形を愛する少年の危険性について

 今回の感想は2023年9月のMF文庫J新作「エヴァーラスティング・ノア この残酷な世界で一人の死体人形を愛する少年の危険性について」です。

エヴァーラスティング・ノア この残酷な世界で一人の死体人形を愛する少年の危険性について【電子特典付き】 (MF文庫J)

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あらすじ(BWより引用

「安心して。私は生き返る。全部忘れちゃうけど、次も絶対あなたを好きになる」

 そう言って最初の彼女は死んだ。

 【死体人形】――それは人間の死体を再利用して作られた、人格を持つ自動人形。

 法的には【物】と扱われる彼らを巡り、世界を二分した戦争が続いていた。

 祖国を滅ぼされた皇子にしてとある特殊な能力を得た少年・サクト。

 彼はかつて死体人形の少女・ノアに助けられるが、落ち延びる途中で彼女は破壊されてしまう。

 その後、初期化されて記憶を失ったノアと、死体人形を演じるサクトは同じ部隊に所属することとなり……?

 輪廻し続ける少女。

 この残酷な世界で一人の死体人形を愛する少年の危険性を、まだ、誰も知らない。

 

感想

 いやぁ、これは濃密な世界観と設定で面白かったですね。

 

 特に、本作の中心にある「死体人形」

 死んでいるから既に人ではなく、人権もない。モノであり、なおかつ致命的な損傷さえない限りは何度でも記憶をリセットして再利用可能である存在。戦争で損壊してもそれは物的損害にしかならず、人的被害にはカウントされない。故に倫理観を無視した特攻作戦にも平然と利用される。

 だと言うのにそんな扱いを受けている死体人形たちには、それぞれ意思があるという。

 意思があればこそ、戦争の道具でありながらも、人間と同等に戦況に応じてフレキシブルな行動を取れるメリットを持つ。けれど、その一方で生前の感覚に基づいた、痛みや恐怖というある程度の感覚と自律的な思考を持っている彼ら彼女らは戦うことに恐怖も苦痛も感じてしまう。

 自らが道具として扱われているのを理解しながら、けれど自由に生きることなどできないから戦わなければならない。

 死体人形へ向ける人の感情や倫理といった問題をいくつも取り上げながら、この境遇を余すところなく描いていくのは、作者のこだわりを感じますし、作品の核が強固であるのは読み手としても面白くて良いですよね。

 

 しかし、それ以上にですよ。

 そんな厳しい境遇にある死体人形ヒロインに据えたら、読者の心は重くなるわ……、って言いたくなる。

 

 だって、そうでしょう。

 この作中の人々のように死体人形はもう生きていないから、なんて割り切ることなんかできず、むしろこの境遇にあることの辛さをダイレクトに感じさせられて、どうすればいいのよ。

 更には、主人公のサクトは人間だった頃の記憶を持っていて、なおかつ今のノアと別の、彼女がリセットされて失った頃のノアのことまで覚えていて、彼女を守りたいと願っている。けれど、常に死ぬこと前提で使われるような死体人形の状況を思えば、どうあっても悲しい結末にしか向かわないじゃんって……。

 ノアを守りたいというサクトの気持ち、そんなサクトの戦いを見て徐々に惹かれていくノアの感情をどんどん見せられたら、二人が幸せになってほしいという気持ちは大きくなってしまい、でも絶対このあと悲しい展開が来て落差ヤバいぞと分かっていながら僅かな幸せの可能性を願わずにはいられない。

 でも、あらすじ見ればこの作品が簡単にハッピーエンドにはなれないのなんか、お察しですし。ノアが一度も死なないままで結末にたどり着けるなんて優しい内容もないんだろうなと分かりますし……。

 

 もうこれどんな気持ちで読めと?

 ただこういう、読者の気持ちを誘導するように掴んで離さないような設定と展開とキャラがあるっていうのは作品として強いですよね。面白いですよね。憎めないんですよね。

 

 特に個人的には、死体人形の持つ感情の話とか大好きな設定。

 痛みとか恐怖とか、生前の感覚を元にしてある程度の感覚はあるけれど。

 真の意味で涙を流す悲しみとか、笑い合う喜びみたいな感情の発露はできないっていう。

 だからこそ、ノア自身が自分に芽生えたサクトへの気持ちを恋と断言することはできずに、けれどサクトのために戦いたいという意思は確かに持っている状態で戦場に出て行くみたいなやつ、すごく良いんですよね。好きなんですよね。

 

 そんな感じで、全体的に好みな設定世界観と、そこから必然的に生じる過酷な展開にグッと惹きつけられるのが面白い作品だったわけですが、個人的に少しだけ物足りないと感じている部分があって。

 それは主人公のサクトが持つ過去の話。

 これが本作のかなりキーになる部分で、深く語ろうとしたらかなりの文量が必要になるものだと思うので、1巻では全容を見せないっていうのは別に問題ないと思うのですが。

 ただ、あまりにも語らなすぎて、サクトがノアに向ける気持ちの強さに共感ができなかったのですよね。何故そこまでノアを守りたいと願うのか、その感情の根源がほとんど分からない状態だと、それをサクトの魅力ではなくそういう設定なんだなという見方でしか捉えられなくなってしまうので。

 ここだけは、少し物足りなさがありました。

 なのでちゃんとシリーズとして巻数重ねて、この辺りの過去もちゃんと描ききった上で、二人のたどりつく結末まで、是非とも読ませて欲しいと思いました。

 

総評

 ストーリー・・・★★★☆ (7/10)

 設定世界観・・・★★★★☆ (9/10)

 キャラの魅力・・・★★★ (6/10)

 イラスト・・・★★★ (6/10)

 次巻以降への期待・・・★★★★ (8/10)

 

 総合評価・・・★★★★(8/10) 死体人形というモノを核にした世界観と過酷な展開に魅了される作品でした

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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