ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part56】藍坂素敵な症候群

 今回感想を書いていく作品は「藍坂素敵な症候群」です。

 電撃文庫より2010年に刊行されていた全3巻のシリーズ。作者は水瀬葉月。イラストは東条さかな

藍坂素敵な症候群 (電撃文庫)藍坂素敵な症候群2 (電撃文庫)藍坂素敵な症候群3 (電撃文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

作品概要

 まずは本作の概要からおはなしします。

 

””何でもほどほどに好きになれるけれど、これといった趣味は持たない平凡な主人公・那霧浩介が転校してやってきた街には奇妙な病気が蔓延している。
 耽溺症候群。
 フィリアシンドロームとも呼ばれる、その病気は人の持つ趣味や性癖を限界まで高めてしまい、重症化してしまうと自らの欲望を満たすためだけに周囲の人間すら害するようになってしまう。
 そんな耽溺症候群を抱えた者たちを治療できるのは、藍坂素敵ただ一人。
 浩介は彼女と、彼女の仲間たちの所属する医術部に巻き込まれて耽溺症候群による事件に関わることになるのだった・・・””

 

 と、そんな感じのお話ですね。

 

 本作のジャンルとしては、
 重症化患者たちによる「猟奇殺人」や「異能バトル」、それから「学園ラブコメ」といった要素があるでしょうか。

 意外に思う要素もあるかもしれません。

 そのあたりも含めて今回のシリーズ感想をまとめていきますね。

 

1:耽溺症候群について

 まず、本作の要となる設定。

 耽溺症候群と、その治療法についてもう少し詳しく説明すると。

 

 重症化してしまった場合には、自分達の欲望を満たすために周囲の人間を害するようになる。

 それだけにとどまらず、その欲望を実現するために現実の理をねじ曲げてしまうような特殊能力を手に入れてしまうというものがあります。例を挙げれば、何かを転ばせることに悦びを感じる耽溺症候群であれば「触れたものを転倒させる能力」、自分の周囲にある危険を全て排除しないと安心して生きていけないという耽溺症候群であれば「あらゆる危険を予測できる」といったように。

 

 そんな患者たちを相手するために「異能バトル」としての要素があるわけですね。

 

 そして、そんな患者たちを治療することができるのが藍坂素敵。

 彼女は、世界と乖離するという特殊な耽溺症候群を患っていて、それ故に世界の理に縛られることなく患者を物理的に殺すことによって、患者の中にある症候群のみを切除することができる性質を持っているらしいです。




 何と言いますか。

 この設定だけ見ても、水瀬葉月先生味に満ちてますよね(笑)

 

 性癖を極大化する病気という設定から「猟奇殺人」に発想が広がるところとか。

 藍坂素敵が患者を治療するためには一度「物理的に殺さなきゃいけない」とか。

 

 普通の人が同じ設定から始めたら、もっと性癖爆発学園ドタバタコメディになりそうなものをこうまで凄惨な内容にできるのは流石といったところ。

 

 いや……、本作も学園コメディであることには間違いないのだろうけど。

 そんな日常の和気藹々をいきなりぶち壊すように、いきなり猟奇殺人パート入ってきますからね……、しかもかなーり細かく描写をしてますし……。

 あれですか、終始ブラック水瀬モードにはできないから殺人描写だけは全力で描くぜみたいな?

 

 ともあれ、読めば分かる水瀬葉月先生味。

 これが個人的には結構好きだったりするお話でした。

 

2:医術部の活動と仲間たち

 本作のメインストーリーとしては耽溺症候群患者たちとの戦い(治療)になるのですが。

 

 そんな藍坂素敵が所属するのは、あくまで学校にあるイチ部活動の「医術部」

 

 そのため本作にはやはり学園コメディとしての味わい、それから同じ部活との仲間との絆のような見所も十分にありました。

 

 重症化した患者は物理的な解決法しかないけれど。

 初期症状であれば、その欲望を最大限に満たしてあげるか、あるいは禁欲によって抑制することで解決できるようなので。

 

 学校内では、初期症状の症候群患者たちの悩み解決のような活動をしています。

 その活動の中では、学校に泊まり込みで大量のドミノを並べたり、部活動監査をしたり、案外普通の学園コメディをやるんですね。

 見てて普通に楽しいです。

 メインの内容がシリアスだからこそ、こういう日常パートが映えるといいますか。



 それから、部活の仲間との絆。

 ここはやはりゲル子さん……、もとい宵闇ヶ原陰子さんがすごく良かったですよね!

 

 傘に対する耽溺症候群を患い、過去に藍坂素敵に治療されたという彼女。

 その恩で彼女のためであれば何でもする覚悟を胸に行動する彼女は見ていてすごく気持ちが良い。

 それこそ最初、浩介が素敵と出会ったばかりで、症候群の事情も知らずに彼女の治療シーン(殺人)を見たときに、別に誤解されたままでいいとする素敵に対して、彼女のことが大切だからこそ誤解されたままが我慢ならずに素敵が普段どんな思いで治療行為(殺人)をしていると思っているのかと言葉を叩きつけるシーンとか、もうすごく良かったですよね。

 

 そこから浩介は素敵のことを理解して、彼女に寄り添うように医術部の活動に入っていく……、すなわちラブコメ的な関係性のきっかけにもなったわけですが。

 そこでも、当然陰子さんが良い味を出すわけで。普段こそ浩介には愚痴やら罵声やらを浴びせて酷な扱いをして、素敵に対してよこしまな感情を抱こう者ならと威嚇もしてきますが。素敵さんラブを明言する彼女であればこそ、浩介じゃないと素敵を助けられない状況だったら素直に彼を頼れる。

 こういうところから彼女が本当の意味で素敵のことが大切なのが、その言動からハッキリ分かる。自分の気持ちではなく素敵を第一にしている。こういう友情を越えた、一方的なラブっていうのはやっぱり良いんですよ。見てて楽しいんですよ。

 

3:藍坂素敵な症候群の真相(ネタバレアリ)

 そして、最後に語るべきはやはり本作の根幹となる「藍坂素敵な症候群」

 

 もうね、これは素晴らしい設定だと思いましたよ。

 

 世界から乖離する症候群を持つ藍坂素敵。

 彼女は世界の癌である症候群を唯一治療できる存在。

 しかしながら、その能力で症候群を切除するたびに、彼女は世界との関わりが薄れていく。

 

 こういう孤独なヒーローってのは最ッ高なんですって。

 言っちゃえば仮面ライダーゼロノス×仮面ライダーアマゾンアルファみたいな奴じゃないですか。

 もう勝ちじゃん。

 設定だけで飯三杯いけるじゃん。

 この時点でわたしは藍坂素敵というヒロインが好きになりすぎた。

 

 けれど、それだけで決して終わらない。

 最初にわたしが概要説明でわざわざ述べた「何でもほどほどに好きになれるけれど、これといった趣味は持たない平凡な主人公」――これこそが本作のもう1つの鍵。

 

 あらゆる性癖を極大化できる症候群があるならば。

 これといった趣味を持たない主人公は、あらゆる症候群に罹患することができるということ。

 

 それすなわち。

 もしも彼が世界から消えゆく少女を、世界中の誰よりも好きになって彼女に依存してしまったらどうなるのか?

 と、そういうお話。

 

 それこそ、藍坂素敵な症候群。

 彼女がいなければ欲望が満たされることがなく生きていくことのできない病気にかかってしまったら、それはきっと「藍坂素敵が存在する世界」を守るために現実の理をねじ曲げる。そして、藍坂素敵のみがそんな病気を治療できるけれど、それをしてしまったら藍坂素敵は定められた運命通りにこの世から消えてしまう。

 

 二人は一生一緒にいることでしか生きていけないし。

 死ぬのであればきっと二人は一緒に消える。



 感情優先ではない。

 病気という鎖で結ばれた強制的な共依存

 あまりに素晴らしい設定過ぎる。

 

 1巻でそんな藍坂素敵な症候群という未来の可能性、素敵さんを救える唯一の希望が浩介なのだと告白した陰子さんの思いを受けて。3巻という短い巻数で完結になってしまったものの、その結末まで書き切ったこと。

 これだけでわたしの中ではもう最高の作品だったと言いたいわけですね。

 

 もちろん、巻数が短くて「もっと読みたかった」「まだまだ掘り下げてないこといっぱいあるだろ」という気持ちはありましたけども。

 個人的にはあくまで「藍坂素敵な症候群」は未来の1つの可能性というのが良いと思ってて。

 耽溺症候群に罹患して、藍坂素敵の治療を受けても完治できずにわずかに異能と要望解消のための衝動が残ってしまった他のヒロインたちが医術部のメンバーとして藍坂素敵を助ける活動をしているわけですが、そんな彼女たちは全員が全員耽溺症候群にかかってしまったほどの何かしらのコンプレックスを持っていることになるってことで。

 何でも好きになれるっていうのは、そんなヒロインたち全てを受け入れられる症候群への可能性があるのですよ。

 しかし、選ばれるのは必ず一人だけ。

 そう考えると巻数を重ねてラブコメ要素の掘り下げは必須だったように思うのです。

 だから、そういう部分で短い巻数で藍坂素敵な症候群に至ってしまったのが惜しいと思うわたしもいるのです。

 

 けど、そういう不満も呑み込んで。

 やっぱりこの「藍坂素敵な症候群」というものは良かった。

 

 

巻別満足度と総合評価

 最後に本作の巻別満足度と総合評価です。

 

 まずは巻別満足度。

 ネタバレアリの部分で話したことから、1巻から非常に高い満足感のある作品でした。

 

 藍坂素敵というあまりにわたし好みすぎるヒロインと。

 そんなヒロインと耽溺症候群を軸に据えた「藍坂素敵な症候群」という設定。

 好きが詰まった作品。

 これまでに水瀬葉月先生作品はシーキューブ、魔女カリの2つを読んでどちらも好きな作品ではありましたが、個人的には今回この藍坂素敵な症候群の方がもっと好きだったなという気持ちもあるくらい。

 

 そういうわけで総合評価は★9/10

 大満足です!

 

おわりに

 前回のシリーズまとめ感想「まぶらほ」から2ヶ月ほど空いたってマジですか?

 過去作を読む時間も減っていますが、それ以上にこのまとめ感想を書く時間がないんですよねぇ……。

 個人的に過去作シリーズはできるだけ感想を1つにまとめておきたいので、このシリーズ感想というのはちゃんと書きたいのですが、難しいものです。

 

 ともあれ今回は藍坂素敵な症候群の感想まとめでした。

 

 

 

 前回のシリーズまとめ感想「まぶらほ

【シリーズまとめ感想part55】まぶらほ - ぎんちゅうのラノベ記録

 次回のシリーズまとめ感想「B.A.D. Beyond Another Darkness」

【シリーズまとめ感想part57】B.A.D. Beyond Another Darkness - ぎんちゅうのラノベ記録