ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part119】サキュバス四十八手

 今回の感想は2023年10月のダッシュエックス文庫新作「サキュバス四十八手」です。

 サキュバス四十八手 (ダッシュエックス文庫DIGITAL)

※画像はAmazonリンク

 

※今回は感想が長くなった都合で見出しの付け方がいつもと違います

 

あらすじ(BWより引用

 回復魔法の才能だけが取り柄な青年・アベルは、勇者パーティーの聖魔術師として魔王討伐のために日夜戦っていた。しかし、そんなアベルの人生は「勇者パーティーを脱退し、サキュバス四十八手を完遂せよ!」という国王の勅命によって急転する。≪サキュバス四十八手≫それは、世界を救う儀式であり、困難かつエッチな行為の数々――。それを、サキュバスの姫であるスズカと共にヤリ遂げなければならないらしい。魔王軍によって窮地に陥った人類を救う最後の切り札こそがサキュバス四十八手であり、失敗すれば、待ち受けるのは“死”。サキュバスの少女と織り成すデッド・オア・セックスの愉快でエッチなファンタジー、ここに開幕!

 

感想

 これはまた……、非常に感想に困ってしまう作品ですね。

 良い部分もあれば、気になる部分も多々ある作品。

 もっと言えば、色々な要素をてんこ盛りにした結果、この作品は一体何をメインに見せたいのかがよくわからず、どれも70点どまりになってしまった。

 そんな印象を持ってしまいましたね。

 

 

 なので今回は、このことについて順を追ってお話ししていきます。


① タイトルや冒頭の掴みは抜群 

 まず着目すべきは、やはりのそのタイトルのインパクト。

 これはもう100点でしょう。

 それに読み始めれば、四十八回のセックス儀式を行うこちで世界を救うだなんて、エロ系作品特有のバカバカしい設定をドンと掲げて、挿絵までちゃんとエロをしてくる豪胆さまで持ち合わせて。

 更には国名など固有名詞も下ネタ満載で非常にアホアホしい作風というのがビシビシ伝わってくる。

 

 正直タイトルと冒頭だけで勝ち逃げできるポテンシャルが十分にあります。……ありました。…あったんですよ。

 

② コメディとして見るには微妙な作品か……?

 初手のインパクトは良かったのに。

 それ以降はエロコメとして見たときの笑える展開が不足していたんですよ。

 

 本作の生み出す笑いは大きく2種類あって。

 ――1つは、下ネタみたいなワードチョイスによる笑い。これは自然と読み進める中で耐性ができてしまうので、なかなか安定した笑いにはなりづらい。

 ――そしてもう1つは、各儀式のたびに行われる素材集めの日常パートにあるコメディ展開。これが素直に爆笑モノなら良いものの、とってつけたようなアホアホしい展開にガッツリとしたファンタジー世界観やシリアスを含めてしまっているために、笑えるパートとしてのパンチは弱くなってしまっていました。

 

 なんといいますか、全体的に笑いどころとそうでない部分のメリハリが感じられず、エロコメとして見たときには不満が残るような形だったんですよね。

 また、そもそもがエロで世界を救うという作品である以上、その方向性を突き詰めていくことで読者「こいつらはバカ真面目になにアホなことしてるんだ?」という笑いを生むポテンシャルもあったように思います。

 しかし、この部分でも振り切れていなかった。

 

 というより本作はなんだかんだで地に足をついた物語としてしっかり展開しようとしているので、笑わせるという方向性はそもそも見方が違うのかもしれないと思いました。

 

 

③ ちゃんとストーリーのあるものとして楽しむのはどうだろうか?

 儀式的な行為を通じて徐々に変わっていくヒロインの心情や、セックスで世界に及ぼす影響がどんな波乱を起こすのかという部分に注目すると……、

 

 なるほど、これはなかなかいい感じでした!

 

 ヒロインの事情や背景、その上で女として覚悟が必要だろう儀式に臨む姿勢、一方で抱えている不安があって、それを受け入れてもらえたことで変わる心の中……、終盤の儀式はただの儀式だけでない気持ちがあるように感じられる変化は、非常によかったです。
 また、まだ主人公やヒロインに直接関わることのない世界の変化という部分も、合間合間に差し込まれて世界観の補強に一役買ってたので良かったですよね。


 ただ、そういうストーリーや変化に注目すると、今度はこの作品のテンポ感の悪さが気になってしまうんですよね。

 

④ 作品のテンポ感が良くない……

 本作は、全体を通してみたときに大きな起承転結がある作品というより、1つ1つの儀式のために何度も同じような展開を繰り返す型のようなものがあります。

 

 具体的に言えば、この1巻では3回の儀式をやってますが、それらは毎回ファンタジー作品らしい素材集めをして、儀式のアイテム(大人の玩具)の準備から始めて、それが用意できてから行為に移っていました。

 

 これがまぁー……、冗長さを感じさせる。

 すごいシンプルな話、まだあと45回も行為が残ってるんですよ。45回もこの流れを繰り返すの? という気持ちになりませんか? 一体どれだけの話を続ける気なのか、そしてそんな長いスパンかかってようやく結末に至るようなストーリーをずっと楽しみに待てるのかということ。

 ストーリー重視の作品として見るのに、同じ展開や型を繰り返すっていうのは相性が良くないと思うのですよね。どうしてもテンポ感を損なってしまいますから

 

 ただ、こういう型って、エロを楽しむ作品には相性が良いと思っていて。

 実際シリーズモノのエロ漫画やエロ同人誌、エロゲーなんかは、毎回同じ分量で、同じくらいに満足できるような構成がある程度決まっているような作品はありますから。

 色々な体位やシチュのエロ展開をどんどん繰り返していくだけでも、持ち味になると思うんです。

 

⑤ じゃあ、素直にエロを楽しめば良いのでは?

 やはりエロは正義だ!

 エロしか勝たん!

 

 そんなシンプルな結論で終わるなら、ここまで長々ぐだぐだ言ったりはしません。

 

 まず、持論としてエロいラノベ読みたいなら、そういう専門のレーベルにいけば良いじゃんで話が終わるんです。

 こういう一般レーベルの中で、それでもエロに特化した作品を出すのであれば、マジでそういうレーベルと遜色ないレベルのエロに振り切るか、あるいはただのエロでは終わらない何かもう一味がほしい。

 本作であれば後者のポテンシャルがあったはずで、エロで世界を救うというファンタジーな世界観、ギャグコメディのような笑い、キャラの心情の変化、そういった要素がそのもう一味として使えるでしょう。

 

 ……うん、それら全部、ここまでの話で微妙だと言って切ってきた要素じゃんって。

 

⑥ 結論

 だから、わたしは言いたいんですよ。

 この作品って、何をいちばんの軸にしたいのかと。

 メインは何なのかと。

 笑わせたいの? エロしたいの? 真面目に世界救いたいの?

 

 最近、同じようにタイトルパワーワード系の作品を読んだりしましたが、それはタイトルのインパクトとは裏腹に内容は非常に真っ直ぐな青春を展開していっていて、そこで軸がしっかりあったからそういう作品としてちゃんと面白く思えた。

 あるいは、同じようにエロパワーで世界を救うぜみたいな作品でも、少年漫画のような熱血やエロ努力勝利の勢いで突き抜ける作品は、それはそれでバカ真面目なえちえちをやってるのだと分かるから面白かったものもあります。

 ダッシュエックス文庫という同レーベルで比較するなら、徹頭徹尾エロに振り切った作品だってありますよね。

 

 でも、本作はその軸が分からなかったんですよ。

 だから楽しみ方もどうすればいいのかとなってしまう。

 色々な要素があって、たしかにそれらは面白い気配はするのに、その全てが中途半端な70点どまりに感じてしまうというというのはそういうことです。

 

⑦ その他、本作に関して思ったこと

 ものすごく正直な気持ちを言うと、儀式の準備のための素材集めパートが個人的にはいらないパートに感じてしまっています。

 例えばこの作品がそもそも魔物の素材から大人の玩具を作るようなクラフト系作品であったり、あるいはこの準備パートが日常コメディ的な味わいを持っているならいざしらず、そうじゃないわけですから。

 更に言えば、大人の玩具というモノに馴染みのないという世界観にそもそも違和感あったりなかったり。ディルドとか、普通にありそうじゃないですか。魔物がいるような世界ならその素材を使った一品とか普通に作られるでしょ。こんな大人の玩具なんて現代になってようやく完成したようなハイテク技術とかじゃあないんですから。

 そういうのも考えると、わざわざ毎回1からアイテムの準備を使用とする展開があまりに無駄に感じてしまいます。これを削ってもっとテンポ良く色々な儀式をやっていった方が良くないかと思うんです。

 

 もちろん別にこういうえっちに至るまでの展開が全くいらないというわけではないです。

 素材集めとかいうパートを削った分、えちシーンを増すでもいいし、えちシーンに至るまでの二人の関係性を掘り下げるでもいいんです。

 エロパートとそうじゃないパートの比率で、どちらを重視したい作品なのかをはっきりしてくれればそれはどちらでもいいです。
 主人公とヒロインの関係性をえちシーンを通じて深めていくのか、それともえちシーン以外の部分で関係性を深めてからえちシーンに入っていくのか、これを明確にしてくれれば、エロありの小説として十分に楽しめたのではないかと思います。

 

 

 またもう一点、これはシンプルに受け入れられなかった部分で。

 主人公が所属していた勇者パーティーの女の子の扱い。

 これがマジでひどかった。

 どうにも彼女は主人公に気があったようですが、儀式の制約で彼女の誘いを受けられない主人公はそれを断らなければならない、そんなシーンがあるんですけど。

 まずこのシーン必要だったか? という素直な疑問があって。その上で主人公の断り方があまりに最低で、ヒロインが涙を流すという。

 なんかいきなり出てきた好意を持っているらしいヒロインをすごい雑に振るとかいう、何の発展性もない展開を差し込んで、読者から見た主人公の好感度を下げるだけ……、一体何を見せられているのかが本気で分からないシーンだったわけですね。

 いやぁ、すごいですよね。

 これはもはや不快ですらあったかもしれません。

 マジで受け入れられなかった部分です。

 

総評

 ストーリー・・・★★☆ (5/10)

 設定世界観・・・★★★ (6/10)

 キャラの魅力・・・★★☆ (5/10)

 イラスト・・・★★★ (6/10)

 次巻以降への期待・・・★★ (4/10)

 

 総合評価・・・★★☆(5/10) 結局この作品は何を楽しめば良かったのですか?

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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