ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part142】亜人の末姫皇女はいかにして王座を簒奪したか 星辰聖戦列伝

 今回の感想は2024年2月の電撃文庫新作「亜人の末姫皇女はいかにして王座を簒奪したか 星辰聖戦列伝」です。

亜人の末姫皇女はいかにして王座を簒奪したか 星辰聖戦列伝 (電撃文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用)

 人間と亜人による聖戦。――英雄たちの生と死を、いま語ろう。

 そこは「神別れの山脈」によって二分される大陸。東に人間が属するワウリ界、亜人が属するネクル界。長きにわたって断絶していた両者だったが、ある頃より“聖戦”を掲げた軍事侵攻によって衝突が繰り広げられる。そして多くの戦士たちが戦火の中で活躍し、非業の死を遂げていった。

 “聖戦”の初期戦端を切り開いた、竜騎兵バラド。最強の暗殺者として恐れられ、人間軍の侵攻を押しとどめた猫人ニャメ。歴史に残る一騎打ちで知られる人間軍の筆頭戦士ニモルドと、亜人軍の武者・犬人ニスリーン。歴史を揺るがした将軍、冒険家、発明家、大神官や、戦火に引き裂かれた恋人たち。そしてたった一人の反乱軍から皇帝にまで上り詰めた亜人の姫・イリミアーシェ。複雑に絡み合う運命の中で、やがて星座として祀り上げられる英雄たちの生と死とともに人間と亜人の歴史を描く、一大叙事詩

 

感想

 これは、見事に練られた世界観に脱帽ですわ。

 

 ””大きな山脈によって二分される大陸。

 東西に分かたれて生きる人間と亜人による聖戦。

 その中で活躍した数多の英雄・偉人たちの伝記をまとめて編纂したような作品。””

 

 本作を簡潔に紹介すればこうなるでしょうか。

 そのためこの作品は基本的に歴史書や伝記、あるいは英雄伝、神話をベースにして、それをとある編集者が個人の見解を添えながら整理してまとめた本を読むような感覚が強かったですね。

 そして基本的には過去の事実を並べていくような形式だけあって、物語性やキャラ一人一人の心情描写のような分かりやすいエンタメ的な面白さはほとんど無かったですよね。こういうお話はラノベとして読むにはかなり新鮮味のあるなと、個人的には感じたところ。

 

 しかしながら、こういう神話や伝記というのは、やはりそれはそれで面白さや味わいがあるというもので。

 特に本作に関して言えば、この物語的な面白さの薄弱さを補って余りあるほどの世界観構築、そして歴史の流れを感じさせる構成が良かったと思っています。

 

 この物語は聖戦を終えた、未来から過去を編纂しているものである。

 そのために、作品世界における現在の価値観や生活の風習、故事成語、空に浮かぶ星座といった数々の基にはこの聖戦があったのだと言うのを細かく描写していて、これが実に面白いのですよ。それにこの作品は現在は空の星座として輝く偉人たちの物語をまとめているという構成もあって、1つ1つの伝記の締めくくりが必ずそうあることに短編集としての読み心地の良さもあったでしょうか。また1人1人の偉人に関して、ここで綴られる物語に即した故事成語が毎回サブタイトルに添えられ、それを回収する形もなかなか面白い。

 それからファンタジーモノとしてもこの世界観描写や設定面での満足感が大きく、ゴブリン集落を旅した冒険男爵の残した冒険譚、そこで描かれるゴブリンたちの生態なんかは特に読んでいて好きだなと感じた部分としてありましたね。……と言いますか、基本的にこの作品の亜人側はその生態や性質をしっかり魅せようとしてたと思うんですよね。人外、異種族というものが好きなわたしとしてはこれだけでメシウマというものよ。

 

 それから、この作品が上手いと感じるのはやはり短編で様々な偉人の物語を並べたところ。1冊で、1人の偉人の物語を派手な起承転結で華々しいエピソードとして綴るのは、それはそれで間違いなく面白いのでしょうけど。

 この作品は、複数の人物の物語を並列することによって、それぞれの偉人が為したことが、その時代でどんな影響を与え、どんな変化を起こしたのかっていうこの時代の流れが見えてくるようになってるんですよ。これが歴史を見るファンタジーとして本当に良かったなと。

 これはキャラクターの思惑や心情を一人称なんかで描いていく”物語”では決して味わえない、後世の人間が個人の見解と意図をもってまとめた1冊ならではの良さだと感じられますよ。




 最後に。

 正直な話をすると、読むのにはめっっちゃ時間かかりましたよ。

 ただでさえ時間のかかる短編集形式に加えて、分かりやすいストーリー性がなく、その上でぎっしり世界観を詰め込んでいる作品なんですよ。読みやすいとは言いづらいです。

 ただ、本当にそういう作品の性質故の欠点を補って余りあるほどに、この作品だからこそ魅せられる強みをしっかり感じられた。じっくり読んで咀嚼する「ファンタジーの歴史」として見ると400ページを超えるボリュームもあって満足感は確かにあったのです。

 

 なので、全体としてはかなり良かったと思っています。

 

総評

 ストーリー・・・★★ (4/10)

 設定世界観・・・★★★★★ (10/10)

 キャラの魅力・・・★★☆ (5/10) 

 イラスト・・・★★★★ (8/10)

 

 総合評価・・・★★★★(8/10) 世界観極振りのようなファンタジー、これは伝記集の形式だからこそできたこと

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

bookwalker.jp