今回の感想は2024年8月のガガガ文庫新作「天使の胸に、さよならの花束を ~余命マイナスなわたしが死ぬまでにしたい1つのこと~」です。
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あらすじ(BWより引用)
もしもあと1日だけ、時間をもらえたら――。
もしも、この世界からいなくなる前に1日だけ猶予をもらえるとしたら、あなたは何をしますか?
『死者と再会させてくれるという美少女がいる』
余命が尽き、どころかマイナスとなってしまったあなたの前へ、そんな噂と共に現れたのは、アイと名乗る天使の少女。
彼女の役目は、肉体を失った魂の最期の願いを叶えることらしい。
そのために、アイは憎まれ口を忘れないひねくれものの相棒・悪魔のディアと一緒に、人の世界に降りてくる。
「――ねえ、あなたの未練はなんですか?」
ひどく美しい姿をした天使は、ひとりぼっちになった魂へ問いかけていく。
その優しい声は、死んでも諦めきれなかったたった一つの想いをそれぞれの胸に浮かび上がらせていって。
いつか交わした約束を守ること。好きなあの子を笑顔にすること。愛する人にありがとうとごめんなさいを伝えること。ずっとしてみたかったデートをすること。大切な人の晴れの日を祝うこと。
「どうか、あなたが大好きな人に笑顔で『さよなら』って言えますように」
これはあなたの最期のために心を尽くす、優しくてちょっぴり泣き虫な天使との出会いと別れの物語。
感想
あ”あ”あ”~、異種族恋愛の香りを感じるのに読者(わたし)を生殺しにしてくるのエグいてぇ~!!!!! こんなものを! 許しては!! いけない!!! 絶対に!!!!
……、と初手から暴走気味ですが。
改めて本作の概要から見ていきますと。
本作は短編形式のお話。
魂だけになってしまった死者の元に現れる天使の少女アイ。
彼女の役割は、死者の魂が抱える未練や心残りを解消すること。
全5編からなる死んだ者たちが大切な人に残す想いとは一体――
と、そんなお話です。
各お話についての詳細は割愛しますが。
総じて、愛で溢れていた物語でした。
届かぬ恋だったり、母と娘の愛だったり。その1つ1つのテーマはどこかで見たような、世の中に溢れかえる物語を探せばどこにでもあるようなものかもしれません。本作の場合すべて死者からのメッセージという点で、最後には必ず悲しみや寂しさが襲ってくることを避けることもできません(ここは正直読んでて個人的には結構辛かったポイントです……)。
しかしそれでも、残してしまう人に旅立つ人が最後に届けるもの。
天使がもたらす奇跡のひとときだからこそ、もうこれ以上思い残すことがないように必死になって、自分が愛する大切な人たちがこれから先の未来をしっかり生きてくれますようにと、先に旅立ってしまってごめんなさいと、ずっとずっと大好きだったと、その想いの全てを届けようとする姿はどうしたって胸を打たれてしまう。
想いの力。愛の力。この作品の持つ明日を生きる人に向けたメッセージ。その力強さを確かに感じられるお話の数々はどれも非常に良かったと思います。
特に個人的には最後のDress、3番目のMotherのお話が好きでした。もちろん各話単体もいいんですけど、短編形式の1つ1つが小さな部分では繋がっていてアイの重ねてきた時間や軌跡を感じさせる構成も見事でして、そういう意味では2話目と4話目がすごく良かったですよ。
そして、これだけでは終わらない。
本作最大の魅力であり、問題点となる部分(超個人的主観に基づく)
それは天使のアイという少女!!!
死者の前に現れる彼女、実は一人だけではなく常に側にはぬいぐるみに封印された口の悪い悪魔ディアが一緒にいるんですね。
そしてアイとディアは常に二人で一緒。ディアの憎まれ口とアイの天真爛漫が上手いこと中和されるような、お互いに基を許してあれこれ言い合える仲なんだと感じる関係性は、彼女たちが出会う死者たちからも仲いいよねと言われる始末。
当然、そんなのを見たらわたしの中のセンサーは「異種族異種間恋愛のかをりがする!!!」と反応してしまいます。
正直、読んでいる間ずーーっと、この二人の事情をはよ!!!
アイはなぜ人の心残りを解消して回ってるの?
彼女が翼を失ってしまった理由は何?
ディアとはどこで出会ったの?
と、それが気になって気になって仕方がなかった!
そしてディア視点の幕間でちらっと語られたその真実たるや!
あー、キタコレ! そうだよね! 素晴らしい! 異種族恋愛が異種族恋愛に進化したぞ!? 関係性で縛られる想い、許されない想い、立ちはだかる壁の大きさ、ディアくんだけが知ってる事情! 全部が全部高水準な異種族恋愛のソレでしかない! 素晴らしい! なんて素晴らしいのか! やっぱり人間同士が紡ぐ物語よりも人と人外、あるいは人外と人外が紡ぐ物語の方が良いに決まってるんだ!(決まってません。しかし、わたしの頭はどういうわけか、人間ではない存在が関わった瞬間に本能的に作品の好き度合いが二段三段向上する補正をかけてしまう機能をつけているみたいなので、本作もその例に漏れず本編ではなくこの幕間で「好き好き好き好きー!!!」ってなって頭がバグりました。いや読み始めの段階から「アイちゃん!天使!可愛い!好き!」ってなって若干おかしくはありましたが……、異種族の中でも特に神さまとか天使はわたしに特攻刺さります。ともあれ、基本的には人が交わす想いで進んでいた本作ですから、そこに急に良質な異種族恋愛を混ぜてくるとわたしの脳がこうもバグるんだなと理解させられた瞬間でしたよね。更に言えば本編でもわたしが割と素直に感動を理解できるのって、人と人じゃなくて、人と死者の物語なのでは?? とかいう疑問を浮かんできて。考えてもみれば本来死んだ人となんか会話できるわけねぇんですから、死者と会話ができて想いを伝えるという設定そのものが異種族恋愛の塊でしかないじゃないかという今更過ぎる発見をしてしまい、本作の見方が一気に反転してきました。そうして改めて見るとアイとディアが各話で死者との対話の中で見せる言動の数々や時間の経過からは人ではない存在としての生き方を感じさせるものがめちゃくちゃ滲み出てますし。天使であるアイが失ったものの奥底にあったはずの感情というものに深みが増してきますし。そういう意味で幕間は本当に本作が一変した瞬間。一瞬にして本作がわたしの好きな要素しか詰まっていないのだと明らかになった、あのときのわたしの中を駆け巡った衝撃と快感は何と言えばいいのか)
というわけで、こんなのディアとアイだけの物語で1冊2冊3冊と書くべきじゃあないですか!?
当然二人の物語を書こうとしたら、彼らが関わる死者たちとの物語も必須となりますのでもっと巻数が必要になりそうですが、やるしかないじゃないですか!?
だって、この1冊だけじゃアイとディアの想いはまだ完結してないんですよ!?
寂しさや悲しさがもう確定してしまって、それでも必死になって最後の想いを届ける人たちの姿を見続けたアイ自身が最後に自分自身の失ったものを取り戻してディアに対してどうするのか!
そこまで見届けなきゃこの異種間恋愛は終われねぇですよ!!!
というか、そこがいちばんこの作品で感動できる部分だっていうのはもう読まなくたって分かる確定的明らかなことなんですから!!!
見せてくれなきゃ困りますよ!!!
こんなのは生殺しでしかないんですよ!!!
お願いなのでちゃんと感動させてください!!!
絶対わたし泣けますから!!!
もしそのときが訪れたのならどんな選択をしたって泣き虫なアイより泣く自信しかないくらいですよ!!!
……、というわけで、本作は異種間異種族恋愛好きにとって大変満たされる素晴らしいものがありながら、本筋はそこじゃねぇからとその部分がフォーカスされることないためあまりに過酷な生殺し感覚も同時に味わえる作品です。
しかし一方で、アイとディア自身の部分ではそうであっても、二人が紡ぐ人と死者が想いを交わし合うという観点で見るとこの作品は本編幕間全部含めて純度100%の異種間異種族恋愛で満たされている作品でありますので、やっぱり傑作です。これはまごうことなき傑作です。異種間異種族が交わす想いに感動したい人は読むしかないでしょう。本当にありがとうございます。こんなにも高水準な異種族異種間恋愛を味わえるとは思っていませんでした。
ただやっぱりそれでもどうしてもアイとディアの部分では生殺しされて辛いので二人の旅の果てをどうかどうか見せてくださいませんか? お願いしますお願いしますお願いします……。
最後に一言で本作をまとめますと。
ここまでの感想をごらんの通り、わたしの情緒がめちゃくちゃにされた(しかもそれが主に本作の持つ本筋ではない部分に起因する。)作品でしたね。
総評
ストーリー・・・★★★★ (8/10)
設定世界観・・・★★★★★ (10/10)
キャラの魅力・・・★★★★★ (10/10)
イラスト・・・★★★★ (8/10)
次巻への期待・・・★★★★★ (10/10)
総合評価・・・★★★★(8/10) 純度100%の異種間異種族を味わえる傑作(ただし続巻出ないと発狂する)!
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録
最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。