ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part200】神様のいるこの世界で、獣はヒトの夢を見る

 今回の感想は2024年3月の講談社ラノベ文庫新作「神様のいるこの世界で、獣はヒトの夢を見る」です。

神様のいるこの世界で、獣はヒトの夢を見る 神様のいるこの世界で 獣はヒトの夢を見る (講談社ラノベ文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 神の差配により、罪を犯した者は身体の一部が異形化させられてしまう世界。生まれながらに身体に変異をもつ原罪種として、罪人を捕らえ裁く治安維持組織の職に就く主人公ヨシュアは、みなし子の女の子カナンと共同生活を始める。しかしこれをきっかけに、ヨシュアは避けがたい運命の波に飲み込まれていく。

 数年後、成長したカナンは王政打倒を掲げる革命軍に所属することに。革命軍を率いる女性ノアとカナンの友情とその蹉跌、そして暴かれる神の真実。運命に翻弄されながらも真実のために起ち上がった人間たちの戦いは、壮絶なクライマックスへと向かう。

 

感想

 いやぁ、これはめちゃくちゃ面白かったですね! 最高でしたよ!



 本作は、罪を犯した者が異形へと転じてしまう世界で、生まれながらに異形の姿である原罪種として生まれた男ヨシュアが自らの罪を晴らすことで人になれると信じ治安維持活動に努める中で、異形にならない悪魔の子と思われし少女カナンと出会ったことをきっかけに徐々に世界の真実を知ってしまうお話です。

 前半はヨシュア視点、後半は数年後のカナン視点で綴られる物語というのが特徴的な構成になっていました。



 そしてこの作品最大の魅力はその世界観にありました。

 罪を犯せば異形になる世界。そこに根付く神を信仰する宗教観。誰もが信じる常識を覆してしまう、古代文明に眠る真実。宗教と常識を操作する王族の存在。悪魔の子と呼ばれる異形にならない者。

 こういう要素1つ1つを結んで網にして広げて物語が展開していく……、わたしはこういう作品が大好きなんですよ! 特に本作は序盤からこれだけ風呂敷広げるための設定をバラまいてくるものだから、中盤からキャラの動きに注目しながら読むことができるんですよね。そして設定や世界観が主人公たちの視点と同じくらい読者も分かっていればこそ、そこから話の展開や着地点をある程度想像をすることができるために、過酷な運命や真実を前に立ち向かう登場人物たちの戦いというのを一緒に覚悟しながら臨むことができるという読書への心構えをしっかり誘導しているのも上手だと思いました。

 

 実際に、中盤からのキャラの動向に着目すれば。

 ヨシュアとカナン、どちらもしっかり主人公として良いキャラしてましたよね。

 真実を知ってしまって神の存在や自分の在り方に悩みながらも、ヨシュアが今自分の側にいる人は確かにいると信じることができるという感情。第2章からのカナンが自らの出自や世界の在り方を知ってその上で自分がやること成すべきことをやろうとする姿。どちらも違う方向性で主人公らしいです。

 特に、個人的に好感を持てたのが、ヨシュアは大人だからこそその責任と罪を自覚しながら行動を成したことと、カナンが子どもだからこそ甘い理想論を掲げながら現実にぶつかって自分が背負うべき罪を自覚していくこと、この対比ですよね。特にこの差はあのキャラとの会話や、結末でしっかり感じられました。

 更にそんな大人と子どもの違いがあればこそ二人の親子としての関係性も良いものだなと感じられるようになってきますしね。

 

 またこういう世界観ならではの王族の腐敗さ加減も見事でしたし。

 それに立ち向かう革命軍という立場の者たちの怒りや憎しみもよく共感できる。

 更にはかつて大きな罪を犯した異形もヨシュアとカナン、二人に出会って変わる心なんかも良い味を出して。

 個人的にいちばん好きだったのはやはりヨシュアの上司であった司教です。この世界を知れば知るほどにタイトルにある「神様のいるこの世界」「獣はヒトの夢を見る」という言葉が幾重にも解釈出来るようになる中で、それでも唯一の信仰だけを持ちそれを正義と信じ続けた人である彼女と異形であるヨシュアの最後のシーンはこの作品を象徴するような歪さの全てを内包していて、もう本当に堪らなくゾクゾクしてしまいましたとも。またカナンと彼女を比較してもまた、人であること、人の姿であることの差異をじわじわ感じられるのがね。

 

 さて、ここまではかなり手放しで褒めてきた本作ですが。

 1つだけ、個人的に惜しかったなと思う部分がありまして。

 それが単巻完結であること!

 これは決してもっと長く話を続けてほしいというわけではなく、1巻でヨシュアとカナンの両方の話を詰めてしまったためにそれぞれに割ける枠が狭くなっているように感じて、割と物語がスルスル進んでいってしまったんですよね。

 ですので、欲を言えば上下巻構成の2冊で読みたかった、という気持ちがあります。

 世界観設定の部分は文句なしであって、中盤から読者が集中して読んでいきたいキャラの変化や心情をもう少しじっくり書き上げてくれたらもっと良かったんじゃないかと、そう思ってしまいました。

 

総評

 ストーリー・・・★★★☆ (7/10)

 設定世界観・・・★★★★★ (10/10)

 キャラの魅力・・・★★★☆ (7/10)

 イラスト・・・★★★★☆ (9/10)

 

 総合評価・・・★★★★☆(9/10) 圧巻の世界観で魅せる珠玉のファンタジー作品!こういうの大好き!!

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。 

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